2013-04-29

人喰い鬼とジャックと豆の木


むかしむかし、ある国の天空に、
心やさしく、争いごとが嫌いな働き者の鬼が、
平和に暮らしていました。

毎日毎日、鬼は一生懸命働いて、
とっても愛する妻とともに、平和な日々を過ごしていましたが、
鬼の顔は人間にとって、とてもとても怖い顔に見えたので、
いつもいつも人間からは、
「人喰い鬼! 人喰い鬼!」と虐められていました。

鬼は、人間にそんなふうに虐められても、
心やさしく、争いごとが嫌いだったので、
おとなしく耐えていました。

ある日、鬼が仕事へ出かけている時に、
ジャック(仮名)という少年が、天空まで伸びる豆の木に登って、
鬼のお家へ不法侵入してきました。

鬼の妻は、ジャック(仮名)に気付くと、
「お願いだから夫を怖がらせないでください」と
パンとミルクとチーズを渡し、泣きながら頼みましたが、
ジャック(仮名)は鬼のお家を出て行くフリをして、
こっそり隠れてしまいました。

夕方になって、鬼が「ただいまぁ。あ~、今日も1日よく働いた!」
と帰ってきました。
「あなた、お帰りなさい! 今日もお疲れ様でした」
と鬼の妻がにっこりと迎え入れると、
鬼は「ん? なんだか人間の匂いがするなぁ。
人間がいるのかな?!」と、鼻をクンクンとさせました。

鬼の妻は、鬼を怖がらせまいと、
「きっと気のせいよ。今日は風が強かったから、
地上から人間の匂いが上がってきたんじゃないの?」と
やさしく話して、
安心させようと「今日はボーナスの日だから、
あなたの大好きなビールをたくさん冷やしておいたわよ」と
元気に、声をかけました。

そして、お風呂へ入って、ビールを呑んで、
愛妻の手料理を食べてお腹いっぱいになった鬼は、
ボーナスの金貨を数えながら、いつの間にかコックリコックリと、
テーブルについたまま、眠ってしまいました。

「しめしめ・・・」と、そこへジャック(仮名)は、
物影から出てくると、
パンとミルクとチーズをもらったことなど、
まるで無かったかのように、
鬼の大切な大切な金貨を盗んでいってしまいました。

しばらくの間、ジャック(仮名)は、
鬼のお家から盗ってきた金貨で、面白おかしく暮らしていましたが、
悪銭身につかず、の通り、
あっという間に一文無しになってしまいました。

そこでジャック(仮名)は、またしても天空へ上って行き、
鬼のお家へ不法侵入をしました。

すると、今度は鬼の家に雌鳥がいるのを見つけました。
雌鳥に、鬼が「生め」と言うと、なんと金の卵を生みました。

「あぁ、また一生懸命働いたから、特別ボーナスということで、
雌鳥をもらってきたが、本当に金の卵を産んだぞ~!」と鬼は、
たいそう喜んでいました。

ですが、またしても鬼は、仕事の疲れがでて、
テーブルについたまま、眠ってしまいました。

「しめしめ・・・」ジャック(仮名)は、
今度は、金の卵を産む雌鳥を鬼から盗ってしまいました。

ジャック(仮名)は、地上へ帰ると、
鬼のお家から盗ってきた金の卵を産む雌鳥を酷使して、
面白おかしく暮らしていましたが、
結局、雌鳥を食べてしまい、
またまた、あっという間に一文無しになってしまいました。

そしてジャック(仮名)は、またまたまたしても天空へ上って行き、
鬼のお家へ不法侵入をしました。

すると、今度は鬼の家に金のハープがあるのを見つけました。
鬼が「歌ってください」と頼むと、
それはそれは美しい声を奏でるではありませんか。

そして、それを聴きながら、
「一生懸命働くと、いいことがあるなぁ。
これからも真面目に働こう・・・ムニャムニャ」と、
またしても鬼は、仕事の疲れがでて、
テーブルについたまま、眠ってしまいました。

「しめしめ・・・」ジャック(仮名)は、
今度は、金のハープを鬼から盗ってしまいました。

しかし・・・
悪いことは続けられないものです。

ジャック(仮名)は、こんどはつまずいてしまい、
ハープを落としてしまい、大きな音をたててしまいました。

それに気付いた鬼は、
「あ~っ! 何をするんだよぉ」と叫びました。

いくら心やさしく、争いごとが嫌いだとは言え、
さすがに三度目ということもあり、
鬼は「こら~!」「もしかして、金貨も雌鳥もあなたですかぁ?!」
と叫びながらジャック(仮名)を追いかけました。

ジャック(仮名)は、豆の木まで猛ダッシュで向かって行き、
スルスルと地上を目指して降りていきました。

鬼は、身体が大きいので、
なかなか思うように豆の木を降りていけません。

ジャック(仮名)は、いち早く地上に降りると斧をとりだし、
「えい!」と豆の木の根元に振り下ろしました。

「うわぁ、やめてくれぇ! やめてください~!」と
鬼は懇願しましたが、
ジャック(仮名)はとうとう豆の木を切ってしまいました。

すると、ドドドドドドドド~!
と、豆の木は鬼ごと地上に崩れ落ちてきて、
鬼は、豆の木に押しつぶされて死んでしまいました。

結局ジャック(仮名)は、
心やさしく、争いごとが嫌いを殺したおかげで、
“人喰い鬼を退治した英雄”という勘違いもはなはだしい評価を受け、
手記を発表し、それが映画化され、映像ソフト化され、
印税をたくさん手に入れ、
講演で全世界を周り、もてはやされ、
結局、面白おかしく暮らしつづけ、楽勝な老後を過ごし、
100歳で大往生するまでヒーローとして生き続けました。

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問い1:人を見た目で判断するのは、良いことでしょうか。

問い2:人のものを盗るのは良いことでしょうか。

問い3:心やさしく、争いごとが嫌いなのは悪いことでしょうか。

問い4:一生懸命働くことは悪いことでしょうか。

問い6:この物語で、一番の悪者は誰でしょうか。


2013-02-13

血の気が引いた! 〜聴かずに死ねるか!《第十九話》〜




今回は、スペシャル。
“志の輔らくご in PARCO 2013”です!

毎年々々、チケットとれず、
今年もダメかなと思っていた“志の輔らくご in PARCO”。
ところが、千秋楽に、あるお方のお世話になるカタチで、
念願がかなった。

“親の顔”(作:志の輔)
“質屋暦”(作:志の輔 最新作)
〜仲入り〜
“百年目”(古典)

念願叶った贔屓目もあるとは思うが、凄かった。

なんと言っても、たった一人で約3時間!
仲入りがあるもとは言え、
そのパワーには正直、まいりました・・・

今回の新作“質屋暦”は良くできた噺で、
展開も登場人物も、時代背景も、下げも、好きな噺となった。
マクラは、ちょいと説明も含まれていたので長めだったが、
興味深い内容だったので、グイっと引き込まれてしまった。

これは、別の高座で、是非また聴きたい。

・・・で、

圧巻は、“百年目”。
好きな噺ではあるが、およそ70分ぐらいの長尺は初めて。
しかも、マクラ無し。

まず、これだけの高座を演るのに、
客を惹きつけっぱなしにできる噺家さんは、
なかなかいないだろう。

ご一緒させていただいた方もおっしゃってたが、
「なんだか前半は“百年目”のためのマクラだったように感じた。
恐ろしいモノを観ちゃったなぁ」と。

同感。

実際、「ここで会ったが百年目」と、
師匠が頭を下げた瞬間、
ス〜っと、血の気が引いていく感じがして、
「やばい、立てないかも!」となってしまった。

小僧さんたちの、いかにもやんちゃな感じや、
番頭さんの二面性や、
太鼓持ちの調子の良さや、
芸者衆の賑やかさや、
春の大川の花見の情景や、
・・・この噺は様々な演じ分けが要求されるのだが・・・
流石師匠! って、まぁ言うのは簡単だけどね。

ホント、頭の中には、自然と映像が湧き出てくるんだけど・・・

実は、旦那様の語りが凄かった。
こんな“百年目”は初めて。

勿論、演じ分けだって超ハイレベルなんだが、
そこってもしかして、旦那様の語りのためのプレリュードだったの?
っつーぐらいに感じてしまった。

まぁ、その語りの仕草がどうだったこうだったと、
ここで書いてしまっては野暮だと思うのだが、
ちょっとだけ・・・

声のトーンは、かなり抑えめ。
アクションも抑えめなのだが、
お茶を入れるシーンの描写は、素晴らしいアクセントになっていて、
何度でも観たくなる。

この噺を知っている方には、乱暴な言い方かもしれないが、
「旦那様の語り部分だけでも、何度でも観たくなった」
と、伝えておきたい。


・・・・・・・・・

で、結局は、カーテンコールがあり、
お囃子の師匠方の紹介と、三本締めがあったので、
血の気が引いたのも若干おさまって、
席を立つことができた。





「・・・」
今回、野暮は無し。